骨粗しょう症治療薬と矯正治療の最前線:知っておくべきリスクと未来の可能性
「骨粗しょう症の薬を飲んでいるけれど、矯正治療はできるの?」
骨粗しょう症治療薬の投与や処方を受けている場合、歯科治療の制限があるのかどうか。原則として休薬不要とされていますが、矯正治療ではどうでしょう。骨粗しょう症は全身の骨密度を下げるだけでなく、実は顎の骨(顎骨)にも大きな影響を与えます。
今回は、2024年〜2025年の最新エビデンスに基づき、治療薬が矯正治療にどのような影響を与えるのか、最新の研究レビューをまとめました。
1. なぜ「骨の薬」が矯正に関係するのか?
矯正治療は、骨芽細胞(骨を作る)と破骨細胞(骨を壊す)による「骨の代謝(リモデリング)」を利用して歯を動かします。一方、骨粗しょう症治療薬の多くはこの代謝に干渉するため、歯の動くスピードや治療後の安定性に影響を及ぼすのです。
主な薬剤とその特徴
- 抗吸収薬(ビスホスホネート、デノスマブなど)骨が壊れるのを抑える力が強く、骨折予防には非常に有効ですが、長期使用により顎骨壊死(ONJ)のリスクが報告されています。
- 骨形成促進薬(テリパラチド、ロモソズマブなど)新しい骨を作る働きを助けます。最近では、顎骨の増強効果についても期待が高まっています。
2. 研究データが示す「効果とリスク」
重要なエビデンスまとめ
| 主な主張 | 根拠の強さ | 理由・背景 |
| 抗吸収薬の骨折予防効果 | 非常に強い | 大規模な臨床試験で一貫して証明されています。 |
| 長期使用による顎骨壊死リスク | 強い | 発症率自体は低いものの、抜歯等の外科処置時には厳重な管理が必要です。 |
| 骨形成促進薬の新たな選択肢 | 中程度 | 有効性は示唆されていますが、長期的な安全性の確立が待たれます。 |
| 天然物や腸内細菌による新戦略 | 中程度 | 動物実験段階ですが、副作用の少ない新しい補助療法として期待されています。 |
ポイント: 抗吸収薬を服用しているからといって、即座に矯正が不可になるわけではありません。しかし、抜歯を伴う矯正や大きな歯の移動を行う際は、医科との連携が不可欠です。
3. 今後の展望:次世代の治療法
現在、研究の最前線では「ただ薬を飲む」だけでなく、よりピンポイントで安全なアプローチが模索されています。
- 局所投与の活用: 顎の骨だけに作用させることで、全身への副作用を抑える戦略。
- バイオモジュレーション: 腸内細菌叢(マイクロバイオーム)の調節やナノ粒子を用いた、新しい歯周組織保護。
- AIの活用: 診断や治療計画の個別化(パーソナライズ)にAIを導入し、リスクを事前に予測。
4. 考察とまとめ
骨粗しょう症治療薬、特にビスホスホネート系は全身の健康維持に大きな恩恵をもたらします。しかし、歯科矯正においては「リスクを知り、正しく備える」ことが成功の鍵となります。
私たちが意識すべきこと
- 多職種連携: 内科医と歯科医が情報を共有し、一人ひとりに合わせた治療計画を立てること。
- 口腔衛生の徹底: 顎骨壊死のリスクを下げる最大の武器は、日々のプロフェッショナルケアとセルフケアです。
参考文献
- Liu et al. (2024) “Jaw osteoporosis: Challenges to oral health…”
- Ali et al. (2025) “Antiresorptive Therapy and Dental Implant Outcomes…”
- Nishiura et al. (2025) “Bone Metabolic Changes During Pregnancy and Lactation…”(その他、Consensus AIによって解析された計50件の最新論文に基づく)
「自分の飲んでいる薬が矯正に影響するか詳しく知りたい」
そんな方は、まず現在のお薬手帳を持って歯科医師にご相談ください。最新の知見に基づいた、安全な治療プランを一緒に考えていきましょう。
監修者
中嶋 亮 | Ryo Nakajima
日本大学松戸歯学部卒業後、同大学大学院にて歯科矯正学を専攻し修了。大学病院での研鑽を経て、2012年より「銀座矯正歯科」に勤務し、数多くの裏側矯正や複雑な症例に携わる。2021年に院長、現在は理事長として診療にあたる。見た目の美しさと咬合機能の両立を重視し、特に舌側矯正やデジタル技術を活用した精密治療に注力。患者一人ひとりの生活背景に寄り添い、長期的な健康と自然な笑顔を引き出すことを理念としている。
【略歴】
- 1998年 富山県立富山中部高等学校卒業
- 1998〜2004年 日本大学松戸歯学部
- 2004〜2008年 日本大学大学院(歯科矯正学専攻)
- 2008〜2012年 日本大学松戸歯学部 歯科矯正学講座 助手(専任扱)
- 2012〜2020年 医療社団法人真美会 銀座矯正歯科 アシスタントドクター
- 2013〜2014年 ニューヨーク大学CDEP 矯正学修了
- 2014〜2018年 日本大学松戸歯学部 顎顔面外科学講座 兼任講師
- 2014〜2015年 カリフォルニア州立大学LA校CDEP 矯正学修了
- 2019〜2023年 日本大学松戸歯学部 歯科矯正学講座 兼任講師
- 2021年〜 医療社団法人真美会 銀座矯正歯科 院長
- 2022年〜 日本デジタル矯正歯科学会 理事・学術担当
- 2023年〜 日本大学松戸歯学部 歯科矯正学講座 クリニカルアドバイザー
- 2023年〜 Digital Dentistry Society Ambassador (Japan)
- 2023年〜 日本大学松戸歯学部 歯科矯正学講座 同門会副会長
- 2023年〜 RayFace (RayDent, Korea) Key Opinion Leader
- 2024年〜 医療法人社団真美会 理事長
【主な所属学会】
- ・日本矯正歯科学会(認定医)
- ・International Congres of Oral Implantrogists (ICOI) インプラント矯正認定医
- ・Digital Dentistry Society 日本アンバサダー
- ・先進歯科画像研究会(ADI) 歯科用CT認定医
- ・厚生労働省認定 歯科臨床研修指導医
- ・日本美容外科学会(JSAPS) 関連会員
- ・Orthopaedia and Solutions マネージャー
- ・(株)YDM 矯正器材アドバイザー
- ・ABO Journal Club 主宰
- ・Cutting Edge of Digital Orthodontics 主宰
- ・BiTechOrtho代表
- ・Orthodontics Institute Japan代表
【論文・学会発表】
- ・加速矯正とアライナー治療による治療期間のコントロール ザ・クインテッセンス2022年11月号
- ・進化するデジタル歯科技術Extra モディファイドコルチコトミー法とSureSmileによる矯正治療 日本歯科評論 81(8)=946:2021.8
- ・進化するデジタル歯科技術 : 3Dプリンターは臨床をどう変革するか(4)矯正治療における3Dプリンターの臨床応用 日本歯科評論 81(4)=942:2021.4
- ・矯正用光重合型レジン系接着システムの接着性能 接着歯学2013年31巻4号P159-166
- ・歯科矯正学における3D診断および治療計画(翻訳) クインテッセンス出版
- ・基礎から学ぶデジタル時代の矯正入門(翻訳統括) クインテッセンス出版
- ・矯正歯科治療のためのコルチコトミー(翻訳)
- ・Effects of… cells in vitro. J Periodontal Res. 2008 Apr;43(2):168-73.
- ・Evaluation…lary tuberosity. J World Fed Orthod. 2022 Jun;11(3):69-74.
- ・T-helper 1…essive orthodontic forces. Oral Dis. 2012 May;18(4):375-88
- ・IL-8 and M…s in periodontal tissues. Oral Dis. 2011 Jul;17(5):489-98.
- ・Effects of…dontal ligament cells. Inflamm Res. 2011 Feb;60(2):187-94.
- ・Effects of…igament cells. Orthod Craniofac Res. 2009 Nov;12(4):282-8.
- ・Levels of …cells in vitro. Orthod Craniofac Res. 2006 May;9(2):63-70.
- ・日本デジタル歯科学会招待講演(2024年)
- ・東北矯正歯科学会招待講演(2025年)
- ・加速矯正による治療期間短縮のコンセプト クインテッセンス出版
- ・Levels of …cells in vitro. Orthod Craniofac Res. 2006 May;9(2):63-70.