学会参加レポート-日本美容外科学会シンポジウム「中顔面にフォーカスした輪郭形成」
※私が普段から美容外科手術を勧めているという内容ではありません。銀座矯正歯科は一般的な裏側矯正やハーフリンガル治療を受ける方が殆どですが、形成外科の医師から紹介を受けて矯正治療を行う方もいらっしゃいます。私は学術的な興味、顔の造形への知的好奇心からJSAPSに参加しています。加えて矯正治療の解剖学的な限界を知ることはとても重要で、「できる・できない」の判断と「ここまでは矯正単科で」という提案をする上でも形成外科の知識は重要だと考えています。ご理解頂いた上でお読みください。
1. 日本美容外科学会について
美容外科には同じ名前の学会、形成外科専門医を中心としたJSAPSとその専門医資格を所持していない方でも入会できるJSASがあります。専門医資格については機構のホームページを参考にして頂くとよろしいかと思いますが、ざっくり、「その分野の専門教育課程を研修施設で受けている」ことが最低条件となります。研修施設には大学病院やその関連施設が含まれます。矯正歯科は機構の専門医制度が始まったばかりで、現時点では殆どの先生が日本矯正歯科学会の認定医や臨床医の資格を使用しています。国の認めた専門医と学会の認定医ではまた少しイメージが異なりますが、「専門研修施設で専門教育を受けた」ことが基本になります。矯正歯科の場合、大学病院で常勤5年間の研修期間や症例数が~症例以上など細かく規定が設けられています。
私は歯科医師ですので、正会員ではなく関連会員。主に輪郭形成のシンポジウムに参加しています。前回は顔全体の輪郭形成のシンポジウムに参加しましたが、「形ではなく姿をみる」という大会テーマは自分の講演でも使うようになりました。これは数値や基準にこだわることが美しさや魅力に直結するわけではないという意味です。以前のコラムにも書いたように、標準値やその範囲は所属集団(日本人)の平均を知る上で重要です。でもせっかく費用と期間をかけて矯正治療を行うのであれば、標準値よりも希望する治療結果と解剖の限界から治療ゴールを導く方が、より満足度の高い治療結果に結びつくのではないでしょうか(これは私見ですので、他の矯正医からはお叱りを受けるかもしれません)。
今回は「Outer Beauty, Inner Confidence」という全体テーマ、「外見の美しさは内面の自信につながる」ということでしょうか。当院でも笑顔で治療を終える事と自己肯定感の向上は矯正治療の一つのテーマとして掲げています。私が参加したのはその中でも「中顔面にフォーカスした顔面輪郭形成」というシンポジウムでした。著名な先生方のご講演は非常に勉強になりました。


2. 中顔面という「形」は顔全体の「姿」のなかでどれだけ重要?
発表者の先生方は「顔が長いから中顔面を短くしたい」という相談を受けるそうです。それに対してシンポジウムで強調されていたのは、中顔面だけを操作しても理想のバランスにはならないという点です。そもそも中顔面は医学的には(矯正学的にも)眉間から鼻下までを指しますが、一般の認知はどうやら目尻から口角の広いエリアを指しているとのこと。我々矯正医には「へぇ~」ですね。目尻から口角というと、一般的には頬の部分になるのでしょうか、その頬の面積や輪郭の形成によって顔の立体感を求めることが答えとされるようです。
さて、矯正治療において中顔面の考え方はどうでしょうか。従来の矯正治療は下顎前歯の位置を基準にゴール設定を行っていました。これは歯の移動限界からAngleやその弟子として1925年から矯正を学び始めたTweedが提唱してきた矯正治療のスタンダードです。現在の矯正治療は新たな診断基準として上顎前歯を選択し、より審美的な治療結果を優先することが増えてきました。私がKey Opinion Leaderを務めるRAYFaceは、Face Driven Dentistry(顔貌主導の歯科治療)を実践する上顎前歯基準の治療計画立案の欠かせないフェイススキャナの代表です。

美容外科と矯正歯科のどちらにおいても「顔全体をどう見せるか」がゴールであり、部分的な数値だけにとらわれないことが大切です。
3. 治療や処置の工夫
JSAPSで紹介された主な方法です:
- 頬骨セットバック:顔の平面を減らすことで立体感を得る方法。。
- 上顎挙上(Le Fort I):ガミースマイルに有効。
- あごの形成(オトガイ形成):下顔面を短くして全体のバランスを整える。
- 鼻や人中(鼻の下)の形成:正面からの縦横比を微調整。
しかしながら、顔の部位を垂直的に短縮するための適応はかなり限定されているようです。LeFort型骨切りはガミースマイルでなければ行わない、逆に人中短縮は口唇閉鎖困難やガミースマイル傾向になる場合はLeFort型骨切りを併用するなど治療のロジックは素人からするとほぼ完成形としてまとまったものと感じました。
4. 「見え方」を決めるのは輪郭と陰影
また、講演で印象的だったのは、
- 横顔は輪郭
- 正面は光と影(陰影)
で印象が決まる、という考え方です。鼻整形もプロテーゼは鼻筋が協調されるため、現在は肋軟骨で対応することなど、とても良い勉強になりました。また、非侵襲的にメイクで顔の立体感を出すことも紹介され、鼻筋のハイライトが強いだけで「鼻が長い」と感じたり、顔が平坦に見えたりすることが示されていました。ポイントは鼻先ではなく鼻根部にボリューム感を持たせることで、メイクでも実践している動画も紹介が有りました。私がメイクをするわけでは有りませんが、ギュテさんやズッチさんの変化とこだわりが好きで私も以前からフォローさせて頂いています。
5. 矯正治療でも起こること
矯正治療だけでも、中顔面の印象が変わることがあります。
- 口元が少し下がって横顔が引き締まる
- あご先がわずかに前に出て、顔全体が整って見える
- 成人女性では「少し顔が痩せた」と感じる方もいる
こうした変化は骨格そのものの大変化ではなく、口唇や頬など“軟組織(軟らかい部分)”の動きによるものです。
研究のポイント
・矯正治療で口唇や頬の位置が変化し、印象が改善することが多数報告されています(Liu 2024, Gao 2022)。
・矯正治療における抜歯は中顔面の変化に大きな差を生まないことが多いとされています(Kouskoura 2022, Freitas 2019)。
6. まとめ ― 顔は「全体の調和」が大切
今回のJSAPS参加を通じて再確認できたのは、顔の印象を変えるときは「どの部分を動かすか」ではなく「どう見えるか」が大切だということです。顔はパーツの集まりではなく、一つの姿。輪郭と陰影の両方をデザインすることで静的な美しさが生まれます。
このシンポジウムが終った瞬間に、実は歯科医師の限界を感じていました。現在のテーマとして扱われることが多い中顔面は医科の範囲であり、矯正医に対応できることは口元の変化だけではないかと感じてしまったのです。それでも自分の講演にどう活かすかを思案したところ、「いや、成長期に鼻上顎複合体に良い影響を与えることが矯正の可能性として残っているって自分で講演してたじゃん」と急に目の前が明るくなりました。歯科医師免許で出来ることはまだまだあります。
成人矯正では骨格の限界があるため、中顔面を変化させられる範囲は小さくなります。それでも、成長期からアプローチをすることで解剖学的な限界を広げることができるはずです。これは小児期から長く患者さんと付き合う可能性の高い歯科医師だからこそできる中顔面へのアプローチです。今回のJSAPS参加は、静的な美しさだけでなく動きの中にある笑顔の魅力を引き出す矯正治療が私の矯正治療のテーマであると強く意識した良い学びとなりました。

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エビデンスメモ
S. Hou et al. “Soft tissue facial changes among adult females during alignment stage of orthodontic treatment: a 3D geometric morphometric study.” *BMC Oral Health*, 21 (2021). S. Paduano et al. “Impact of functional orthodontic treatment on facial attractiveness of children with Class II division 1 malocclusion..” *European journal of orthodontics* (2020).
監修者

中嶋 亮 | Ryo Nakajima
日本大学松戸歯学部卒業後、同大学大学院にて歯科矯正学を専攻し修了。大学病院での研鑽を経て、2012年より「銀座矯正歯科」に勤務し、数多くの裏側矯正や複雑な症例に携わる。2021年に院長、現在は理事長として診療にあたる。見た目の美しさと咬合機能の両立を重視し、特に舌側矯正やデジタル技術を活用した精密治療に注力。患者一人ひとりの生活背景に寄り添い、長期的な健康と自然な笑顔を引き出すことを理念としている。
【略歴】
- 1998年 富山県立富山中部高等学校卒業
- 1998〜2004年 日本大学松戸歯学部
- 2004〜2008年 日本大学大学院(歯科矯正学専攻)
- 2008〜2012年 日本大学松戸歯学部 歯科矯正学講座 助手(専任扱)
- 2012〜2020年 医療社団法人真美会 銀座矯正歯科 アシスタントドクター
- 2013〜2014年 ニューヨーク大学CDEP 矯正学修了
- 2014〜2018年 日本大学松戸歯学部 顎顔面外科学講座 兼任講師
- 2014〜2015年 カリフォルニア州立大学LA校CDEP 矯正学修了
- 2019〜2023年 日本大学松戸歯学部 歯科矯正学講座 兼任講師
- 2021年〜 医療社団法人真美会 銀座矯正歯科 院長
- 2022年〜 日本デジタル矯正歯科学会 理事・学術担当
- 2023年〜 日本大学松戸歯学部 歯科矯正学講座 クリニカルアドバイザー
- 2023年〜 Digital Dentistry Society Ambassador (Japan)
- 2023年〜 日本大学松戸歯学部 歯科矯正学講座 同門会副会長
- 2023年〜 RayFace (RayDent, Korea) Key Opinion Leader
- 2024年〜 医療法人社団真美会 理事長
【主な所属学会】
- ・日本矯正歯科学会(認定医)
- ・International Congres of Oral Implantrogists (ICOI) インプラント矯正認定医
- ・Digital Dentistry Society 日本アンバサダー
- ・先進歯科画像研究会(ADI) 歯科用CT認定医
- ・厚生労働省認定 歯科臨床研修指導医
- ・日本美容外科学会(JSAPS) 関連会員
- ・Orthopaedia and Solutions マネージャー
- ・(株)YDM 矯正器材アドバイザー
- ・ABO Journal Club 主宰
- ・Cutting Edge of Digital Orthodontics 主宰
- ・BiTechOrtho代表
- ・Orthodontics Institute Japan代表
【論文・学会発表】
- ・加速矯正とアライナー治療による治療期間のコントロール ザ・クインテッセンス2022年11月号
- ・進化するデジタル歯科技術Extra モディファイドコルチコトミー法とSureSmileによる矯正治療 日本歯科評論 81(8)=946:2021.8
- ・進化するデジタル歯科技術 : 3Dプリンターは臨床をどう変革するか(4)矯正治療における3Dプリンターの臨床応用 日本歯科評論 81(4)=942:2021.4
- ・矯正用光重合型レジン系接着システムの接着性能 接着歯学2013年31巻4号P159-166
- ・歯科矯正学における3D診断および治療計画(翻訳) クインテッセンス出版
- ・基礎から学ぶデジタル時代の矯正入門(翻訳統括) クインテッセンス出版
- ・矯正歯科治療のためのコルチコトミー(翻訳)
- ・Effects of… cells in vitro. J Periodontal Res. 2008 Apr;43(2):168-73.
- ・Evaluation…lary tuberosity. J World Fed Orthod. 2022 Jun;11(3):69-74.
- ・T-helper 1…essive orthodontic forces. Oral Dis. 2012 May;18(4):375-88
- ・IL-8 and M…s in periodontal tissues. Oral Dis. 2011 Jul;17(5):489-98.
- ・Effects of…dontal ligament cells. Inflamm Res. 2011 Feb;60(2):187-94.
- ・Effects of…igament cells. Orthod Craniofac Res. 2009 Nov;12(4):282-8.
- ・Levels of …cells in vitro. Orthod Craniofac Res. 2006 May;9(2):63-70.
- ・日本デジタル歯科学会招待講演(2024年)
- ・東北矯正歯科学会招待講演(2025年)
- ・加速矯正による治療期間短縮のコンセプト クインテッセンス出版
- ・Levels of …cells in vitro. Orthod Craniofac Res. 2006 May;9(2):63-70.