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「矯正のプロ?」~歯科医師の経歴を見抜くための「経歴・資格」の読み方~(謎の団体、学会について解説しよう)

矯正治療を検討し始めたとき、クリニックのホームページを見ていて気になるポイントのひとつに「経歴・資格」がありますね。

「〇〇学会 認定医」 「〇〇協会 会員」 「○○マウスピース認定医」

ズラリと並ぶ肩書きや英語の団体名。「なんだか凄そうだけど、一体なにが凄いのか分からない」「結局、どこを見ればいいの?」と迷われる方は非常に多いです。

実は、これらの資格や所属団体は、そのドクターの実力を知るための重要なヒントになります。しかし、そこには一般の方には知られていない「業界の裏事情」とも言える、少しややこしい仕組みがあるのです。

そもそも歯科医師であれば経歴や専門資格に関係なく予防処置、虫歯治療や矯正治療も外科処置もできます。
「専門資格」の位置付けとはどのようなものでしょう。

専門資格は歯科医師免許取得後に大学病院で矯正歯科や小児歯科専門教育を学び、日本歯科医学会の専門あるいは認定分科会で資格試験に合格することが概ねの条件と言えます。

今回は、私の個人的見解をかなり多めに含んだ「学会と資格の読み方」について、少し踏み込んで解説します。


そもそも「学会」と「研究会」って何が違うの?

プロフィールの見方を解説する前に、まず言葉の定義についてお話しさせてください。 歯科医師のプロフィールには、よく「〇〇学会」や「〇〇研究会」という言葉が出てきますが、この2つは似て非なるものです。イメージしやすく例えるなら、以下のような違いがあります。

学会 =「大学・公的な組織」のようなもの 多くの会員(100から数千人規模など)が所属する公的な性質が強い組織です。 ここで「認定医」や「専門医」の資格を取るには、「5年以上の研修」「厳格な試験」「実際の治療症例の審査」など、非常に高いハードルをクリアしなければなりません。 (例:日本矯正歯科学会など)

研究会 =「サークル・専門塾」のようなもの こちらは、特定の治療法(例えば〇〇式装置など)やテーマを深く学ぶための、比較的少人数で私的な集まりであることが多いです。 もちろん、世界的に権威のある素晴らしい研究会もたくさんあり、そこで研鑽を積むことは非常に意義があります。歴史のあるところだと非抜歯矯正研究会、床矯正研究会、そしてスピード矯正研究会も加速矯正をメインテーマとした研究会のひとつです。

「1日セミナーを受けただけで、立派な額縁に入った認定証(CERTIFICATE)がもらえる」といった比較的ハードルの低い研究会や、「単一のメーカーによる材料がメインテーマ」の学会も有ります。

こうなるともう団体や肩書に含まれた意味を見分けるのは一般の方には難しい、というかもうCERTIFICATEに意味なんてないかもしれません。歯科の技術ってセミナーを1回受講した程度で上手くいくようなもんじゃないですからね。

そのCERTIFICATEも名前だけでは何とも言えないのがまた難しいところです。

下に並べた写真は私の認定証で、全て英語ではCERTIFICATEにあたるものです。左から「一般社団法人日本矯正歯科学会認定医資格証」「ヨーロッパ舌側矯正歯科学会(ESLO)アクティブメンバー認定証」「ニューヨーク大学歯学部矯正卒後研修プログラム現代矯正学コース修了証」。

日本矯正歯証科学会認定医証
ヨーロッパ舌側矯正歯科学会アクティブメンバー証
ニューヨーク大学卒後研修プログラム現代矯正学コース修了証

この中で最も価値が重いのは名前が短い日本矯正歯科学会認定医資格証でしょう。名前の長さとか海外とかは資格の重さとは関係ありません。日本矯正歯科学会認定医は5年11症例の審査。ESLOアクティブメンバーは2症例の審査。ニューヨーク大学プログラムは2年で東京2回、NY2回、天津1回をそれぞれ2~3日ずつ受講し、インプラント矯正を2症例の審査を受ける事で認定され、ICOI口腔インプラント学会のインプラント矯正認定医を取得したものです。


学会の規模と構成人数はどうなってるの?

「学会」と名乗るだけなら、法的な最低人数という決まりはありません。極端な話、今日から私1人で「銀座矯正学会」を名乗っても法律違反にはなりません。もちろん、やりません。

しかし、「学会」として国(日本学術会議)に認められるには明確な基準があります。 この「ギャップ」こそが、矯正関連団体が多くある理由につながります。

1. 誰でも名乗れる壁(0人〜)

  • 基準: なし
  • 実態: 任意団体。マンションの一室や、仲間内数人でも「○○学会」と名乗れてしまいます。
  • リスク: 実質的な活動がなくても、立派な認定証を発行して「認定医」ビジネスができてしまいます。

2. 法人化の壁(2人〜)

  • 基準: 一般社団法人なら最低2人
  • 実態: 「一般社団法人 日本〇〇学会」と名乗ると少し立派に見えますが、実はたった2人(院長と事務長など)で作れてしまいます。
  • 注意点: 「法人だから安心」とは限りません。法人はわりと簡単に作れます。

3. 公的な壁(100人〜)★ここが重要

  • 基準: 日本学術会議の「協力学術研究団体」に指定されるには、通常「会員数100名以上」などの厳しい要件があります。
  • 実態: 日本矯正歯科学会などの主要な学会はここをクリアしています。
  • 意味: ここまで来て初めて、公的に「学術団体」として認知されたと言えます。

歯科医師のなかで所謂「学会」として認知されている団体は日本歯科医学会の専門分科会・認定分科会に所属する団体です。今は学会に参加しなくても新しくリアルな情報がいくらでも手に入ります。認定医や専門医を目指さないのであれば、わざわざ入会金や参加費を支払ってまで学会参加する必要はないでしょう。

学びの場では志を共にする大切な仲間たちに出会えます。

■ もっともらしい名前の「謎の団体」に注意?

ここが一番の注意点です。 ホームページに「認定医」と書いてあると、すごく権威があるように見えますよね?

でも実は、その中には実態がよく分からない「謎の団体」が存在することもあります。 極端な話をすれば、お金を払って登録するだけで「会員」や「認定医」を名乗れるようなケースも、残念ながらゼロではありません。

「名前が立派だから凄い」とは限らないのが、この業界の難しいところ。 だからこそ、「どの団体の、どのランクの資格なのか」をしっかり見ていただくことが、ご自身の大切な歯を守るために必要だと考えています。

では、具体的にどの学会なら信頼できるのでしょうか? 日本の矯正歯科における「基準」となる資格から見ていきましょう。


矯正治療においても「歴史は信頼の証」

■ 日本の矯正歯科の歴史を知れば、「本物」が見えてくる

信頼できる学会を見極めるには、少しだけ歴史を遡ると分かりやすくなります。 日本の矯正歯科には、すべての基礎となる「本家(メインストリーム)」と、そこから発展した「分家(スペシャリスト)」の流れがあるからです。

1. すべての始まりは「東京矯正歯科学会」(現在の日本矯正歯科学会)

日本の矯正歯科の歴史は古く、1926年(大正15年)にまで遡ります。 当時、矯正歯科を志す歯科医師たちが集まって結成された「東京矯正歯科学会」が、現在の日本の矯正歯科界のトップに君臨する「日本矯正歯科学会(JOS)」の前身です。

つまり、日本矯正歯科学会(JOS)は、日本の矯正歯科における「総本山」。 会員数は約7,000名を超え、ここで認定医や臨床指導医(旧専門医)を取得することは、矯正歯科医としての「パスポート」を持つことに等しいと言えます。 逆に言えば、「矯正治療を行っているのに、この学会に入っていない、そして認定医を持っていない」というのは専門教育課程を経ていないということになります。

2. 全国へ広がる「地方部会」の役割

学会が大きくなるにつれ、日本全国のドクターが東京に集まるのは大変になります。そこで、各地域ごとの拠点として「地方部会」が作られました。

  • 北海道矯正歯科学会
  • 東北矯正歯科学会
  • 東京矯正歯科学会(※現在は関東甲信越の支部として活動)
  • 近畿東海矯正歯科学会
  • 中・四国矯正歯科学会
  • 九州矯正歯科学会
  • 甲北信越矯正歯科学会

今年は地方部会のひとつ、東北矯正歯科学会学術大会での特別講演に招待頂きました。大学主体の学術大会の場でFace Driven Dentistryについて講演できたことは大変光栄でした。お世話になった東北矯正歯科学会の先生方、菅原先生、里見先生、西井教授、大谷先生、佐藤先生、本当にありがとうございました。

少しややこしいのですが、現在の「東京矯正歯科学会」は、大正時代にできた前身組織の名前を受け継いだ、関東エリアの支部学会ということになります。これらはすべて、本家である日本矯正歯科学会と連携しています。

3. 進化するニーズに合わせて生まれた「専門学会」

ここまでは「エリア」の話でしたが、時代が進むにつれて「治療内容」に特化した学会が必要になってきました。これが、より高度な専門性を担保するための学会です。

  • 日本成人矯正歯科学会(JAAO): 昔は「矯正=子供のもの」でしたが、大人の矯正が増えるにつれて発足しました。歯並びだけでなく、大人の骨格や歯周病リスクなども考慮した、総合的なアプローチを探求する学会です。
  • 日本舌側矯正歯科学会(JLOA): 「装置が見えるのが嫌」というニーズに応えるために発展したのが、歯の裏側に装置をつける「舌側矯正(リンガルブラケット)」です。 この技術は非常に難易度が高く、一般的な矯正の知識だけでは対応できません。そのため、**「裏側矯正をやるなら、この学会で研鑽を積むのがマスト」**と言われるほど、技術的に特化したプロフェッショナル集団です。
  • 日本デジタル矯正歯科学会(JDOS):デジタルソリューションを用いてデジタル矯正治療に関する学術、及び研究発表することで会員相互並びに国内外との連携協力団体との交流を深め、国民に対して安全、良質なデジタル矯正歯科医療の普及を図り、もって国民の健康増進及び福祉の向上に貢献することを目的とした団体。
  • 日本3Dプリンティング矯正歯科学会(JA3DPO):矯正歯科領域の3Dプリンティングに関する学理技術及びその臨床応用についての研究発表、知識の交換、国内外との連携協力等に関する事業を行ない、3Dプリンティング矯正歯科の進歩普及、学術の発展並びに国民の口腔衛生の向上に寄与することを目的とした事業を行う。
  • 日本先進矯正歯科学会(JAOS):i-Stationというアンカースクリューシステムをメインテーマとした学会。

いかがでしょう。矯正歯科関連だけでこんなに多くの学会と認定医資格…患者さんにはその違いは全く分かりませんよね(笑)

■ 結論:どこを見ればいいの?

長くなりましたが、選び方の基準をシンプルにまとめるとこうなります。

  1. 【必須条件】日本矯正歯科学会(JOS)の認定医以上か? → ここがベースライン(基礎)です。これがないと、スタートラインに立っていない可能性があります。
  2. 【希望に合わせて】専門学会に所属しているか? → 「裏側矯正」を希望するなら、ESLO、WSLOや日本舌側矯正歯科学会の会員や認定医であるかが、技術力を測る大きな指標になります。

「謎の団体」のきらびやかな名称に惑わされず、こうした「歴史と実態のある学会」に所属し、地道に活動しているドクターを選ぶこと。 それが、矯正治療で後悔しないための、一番確実な方法なのです。

自称「矯正のプロ」は矯正科で学んだ歯科医師は使わないでしょう。何故なら自称しなくてもプロフェッショナルとしての自信とプライドがあるから。

監修者

銀座矯正歯科 院長 中嶋 亮|東京都で裏側矯正を専門に行う矯正専門歯科「銀座矯正歯科」

中嶋 亮 | Ryo Nakajima

日本大学松戸歯学部卒業後、同大学大学院にて歯科矯正学を専攻し修了。大学病院での研鑽を経て、2012年より「銀座矯正歯科」に勤務し、数多くの裏側矯正や複雑な症例に携わる。2021年に院長、現在は理事長として診療にあたる。見た目の美しさと咬合機能の両立を重視し、特に舌側矯正やデジタル技術を活用した精密治療に注力。患者一人ひとりの生活背景に寄り添い、長期的な健康と自然な笑顔を引き出すことを理念としている。

【略歴】

【主な所属学会】

【論文・学会発表】