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ヨーロッパ舌側矯正歯科学会(ESLO)Titular会員に認定されました ― ヴェローナ大会でのポスター発表とあわせてご報告

6月24日から29日までお休みを頂いてヨーロッパ舌側矯正歯科学会(ESLO)の Titular会員(指導的正会員/Titular Membership) に求められる審査に合格し、認定をいただきました。認定は、2026年6月25日、イタリア・ヴェローナで開催された ESLO 学術大会において、審査に合格したことによるものです。あわせて同大会では、ポスター発表 「The face leads. The teeth follow.(顔が導き、歯が続く)」 を行いました。患者さんと、同じく矯正歯科に携わる先生方の双方に向けて、その意味するところをご報告いたします。

舌側矯正(裏側矯正、リンガル矯正)の歴史は日本で始まりましたが、世界各地に専門学会が存在します。その中でも歴史の古いESLOの専門医資格は日本の先生方も目指すところの一つであり、矯正専門医の集大成と言えます。

ESLO(ヨーロッパ舌側矯正歯科学会)認定医および専門医資格証

「学会の会員になった」という出来事は、一見すると患者さんの治療と直接の関わりが薄いように思えるかもしれません。しかし ESLO の会員制度、とりわけ Titular 会員の認定には、実際に治療を完了した症例を第三者の評価委員会に提出し、審査を受ける という過程が含まれています。これは「肩書き」ではなく「診療の中身が外部の目で確認された記録」であり、治療を受けられる方にとっても一つの判断材料になり得ます。本記事では、ESLO とはどのような学会なのか、Titular 会員とは何を意味するのか、当院が専門としてきた舌側矯正がどのような治療なのか、そして今回のポスター発表で示した考え方を、順を追ってご説明します。

ヨーロッパ舌側矯正歯科学会(ESLO)とは

ESLO(European Society of Lingual Orthodontics)は、歯の裏側(舌側)に装置を取り付けて歯ならびを整える 舌側矯正(リンガル矯正) の発展を目的として、ヨーロッパで設立された学術団体です。その源流は1990年代初頭のフランス・イタリアの矯正歯科医たちによる活動にさかのぼり、以来30年以上にわたって、舌側矯正の技術的水準と教育の標準化に取り組んできました。

舌側矯正は、装置が外から見えにくいという審美的な利点から、人前に立つ機会の多い方や、矯正中の見た目に配慮したい成人の方に選ばれることが多い治療です。一方で、装置を歯の裏側という限られた空間に精密に配置する必要があるため、術者には高い技術と相応の研鑽が求められます。こうした専門性の高い分野では、各国・各地域に専門の学会が組織され、世界的には世界舌側矯正歯科学会(WSLO)を頂点として、ヨーロッパの ESLO、アジア・オセアニアの各学会などが連携しながら、知見の共有と教育を担っています。ESLO はそのヨーロッパ地域における中核的な存在のひとつです。

ここで強調しておきたいのは、ESLO が単なる「会員の集まり」ではなく、会員資格そのものに臨床能力の確認を組み込んでいる 点です。会員になるためには会費を払えばよい、というものではなく、舌側矯正で実際に治療を完了した症例を提出し、学会の評価委員会の審査を経る必要があります。次の章で、この仕組みを具体的にご説明します。

Titular会員(指導的正会員)とは ― 症例審査という仕組み

ESLO の会員資格は段階的に構成されています。下の図は、その到達プロセスと、それぞれの段階で求められる主な要件を整理したものです。

ESLOアクティブメンバー(正会員、認定医)とティチュラーメンバー(指導的正会員、専門医)の資格要素

まず Active会員(正会員) になるには、舌側矯正で治療を完了した2症例(そのうち1症例は、抜歯をともなう難度の高い症例であることが求められます)を提出し、学会の評価委員会の確認を受ける必要があります。加えて、すでに会員である2名の推薦を受けること、そして矯正歯科の正規の専門教育課程を修了していることが条件となります。

その上位資格である Titular会員(指導的正会員) では、提出症例の数が増え、舌側矯正で治療を完了した 5症例 が求められます。さらに重要なのは、カテゴリー別(同じ症状は重なってはいけない)、治療が終わった直後の状態だけでなく、治療後およそ1年が経過した時点での安定性まで含めて、評価委員会が検証する という点です。矯正治療では、装置を外した直後にきれいに並んでいても、その後に後戻り(治療した歯ならびが元に戻ろうとする現象)が起こることがあります。治療後1年の安定性を確認の対象に含めることは、「並べて終わり」ではなく「整えた状態が保たれているか」までを問う、踏み込んだ審査だといえます。

Titular会員は、学会内で議決権を持ち、役職に就く資格を得るなど、学会運営の中核を担う立場にもなります。しかし患者さんにとってより本質的なのは、肩書きそのものよりも、その認定の背景に「複数のカテゴリー別の完了症例が、第三者の評価委員会によって審査された」という事実がある ことです。診療の質は本来、外からは見えにくいものです。その見えにくい部分を、利害関係のない専門家集団が一定の基準で確認した、という記録は、治療を委ねる側の安心材料の一つになり得ると考えています。

なお、今回の大会では、 Titular 会員の申請者14名中、合格者は半数未満という非常に狭き門でした。日本チームとして舌側矯正の研鑽を続けてきた成果を、複数名で共有できたことを嬉しく思います。こうした審査基準は科学や治療技術の進歩にあわせて学会が随時見直すものとされており、本記事の記載は現時点で公開されている規定にもとづくものです。

私自身も、この段階を一歩ずつ歩んできました。まず 2024年6月27日、オランダ・アムステルダム での審査に合格して Active会員(正会員)に認定され、その後の臨床の積み重ねを経て、2026年6月25日、イタリア・ヴェローナ での審査に合格し、Titular会員(指導的正会員)の認定に至りました。先に示した会員資格の段階を、実際に2年かけてたどってきたかたちです。

ESLO学術大会2026(イタリア・ヴェローナ)について

今回の認定とポスター発表の舞台となったのは、2026年6月25日から28日にかけて、イタリアの古都ヴェローナで開催された ESLO 学術大会です。大会のテーマは 「Severe Discrepancies and Lingual Orthodontics: the Challenge(重度の不正咬合と舌側矯正 ― その挑戦)」 とされ、難度の高い症例に舌側矯正でどう向き合うかが、世界各国の専門家のあいだで議論されました(Congress chairman: Dr. Enrico Albertini/Scientific chairman: Dr. Asif Chatoo)。

日本舌側矯正歯科学会理事長である傳法先生の発表

会場では、各国の演者による講演やポスター発表、症例検討が行われ、舌側矯正という共通言語のもとで活発な意見交換がなされました。こうした国際的な学術の場に身を置き、最前線の知見に触れ、自院の臨床を世界の水準に照らして見直すことは、日々の診療を更新し続けるうえで欠かせない機会だと考えています。

舌側矯正(リンガル矯正)とは ― 装置の「位置」が生む違い

ここで、当院が専門としてきた舌側矯正について、あらためて整理しておきます。矯正装置(ブラケットとワイヤー)を歯のどちらの面に取り付けるかによって、治療は大きく「表側矯正」と「舌側矯正」に分かれます。

表側矯正では、装置を歯の外側(唇側)に取り付けます。広く行われている方法で、適応範囲が広く、術者の視認性もよいという利点があります。一方の舌側矯正では、装置を歯の裏側(舌側)に取り付けます。装置が正面から見えにくいため、矯正していることを周囲に気づかれにくい という審美的な特長があります。これが、舌側矯正が成人の方や接客・人前に立つ機会の多い方に選ばれてきた大きな理由です。

ただし、見えない場所に精密な装置を取り付けるということは、それだけ術者側の技術的なハードルが上がることも意味します。歯の裏側は形態が複雑で、装置を置けるスペースも限られています。ここに正確に装置を配置し、計画どおりに歯を動かしていくには、専門的な訓練と経験の蓄積が欠かせません。ESLO のような学会が症例審査を通じて技術水準を確認しているのは、まさにこの「見えにくいがゆえに、質の差が出やすい」領域だからこそ、といえます。

舌側矯正のエビデンス ― わかっていることと、慎重にみるべきこと

患者さんに正確な情報をお伝えするという観点から、舌側矯正について 現在の研究で何がわかっているのか を、誇張せずに整理します。ここでは「一定の根拠が示されているもの」と「傾向としてみられるもの・個人差が大きいもの」を分けて記載します。

まず、舌側矯正で 矯正治療としての目標(歯ならびや咬み合わせを整えること)を達成できる こと自体は、系統的レビューでも支持されています。Mistakidis ら(2016)の系統的レビューは、舌側矯正の臨床成績について、個別の治療目標の達成や、装置を付けた歯の表面における脱灰(白濁・初期むし歯のもとになる現象)の起こりにくさといった点で、励みになる結果が得られていると報告しています。同時に、この論文は「より質の高い前向き研究が今後さらに必要である」とも明確に述べており、ここは慎重に受け止めるべき点です(Mistakidis et al., 2016)。Ahmed ら(2024)の系統的レビューも、審美性への需要の高まりを背景に舌側矯正の有効性を概観し、一貫した治療成果のパターンが認められるとしています(Ahmed et al., 2024)。

一方で、装着初期の慣れや使用感には個人差があり、ここは「傾向」として捉えるべき 領域です。舌側に装置がある以上、舌が触れることによる違和感や、発音・食事への一時的な慣れが必要になることが、複数の研究で指摘されています。これらの多くは時間の経過とともに軽減していくものですが、感じ方には個人差があります。治療法を選ぶ際には、審美的な利点と、こうした装着初期の使用感の両面を理解したうえで判断していただくことが大切です。

なお、矯正治療全般についていえば、治療を受けた患者さんの満足度を扱った系統的レビュー(Almasri et al., 2024)でも、治療の種類や患者さんの背景によって満足度に差が生じうることが示されています。「どの治療法が誰にとっても最良」という単純な話ではなく、一人ひとりの希望・生活・口腔内の状態に合わせて選択していくべきものだ、というのが、エビデンスからも導かれる現実的な結論です。

ポスター発表「The face leads. The teeth follow.」― 顔から考える舌側矯正

今回のヴェローナ大会で中嶋が行ったポスター発表のテーマは、「The face leads. The teeth follow.(顔が導き、歯が続く)」。当院が取り組んでいる Face Driven Dentistry(フェイス・ドリブン・デンティストリー/顔貌を起点とした歯科治療) の考え方を、舌側矯正の文脈で示したものです。

FDD(FaceDrivebDentitry)についてポスター発表も。症例とポスターの両方提出したのは日本矯正歯科学会の認定医を取得した時と同じ動きでした。正直言ってめちゃくちゃしんどかった

従来の矯正の検査・診断は、顔写真・口腔内写真・規格レントゲンなど、複数の情報をそれぞれ別々に取得し、頭の中で統合して治療計画を立てる、という進め方が一般的でした。情報が分断されていると、立体的な顔やお口の状態を平面の資料に置き換える過程で、どうしても失われる情報が出てきます。

このポスターで示したのは、その流れを反転させる発想です。すなわち、まず「どんな顔・どんな笑顔をゴールにするか」を定め、そのゴールから逆算して、診断から舌側矯正装置の設計までを一本のデジタルな流れ(ひとつの統合データ=デジタルアバター)の上でつなぐ という考え方です。顔というゴールから装置の設計へ(from the facial goal to the lingual appliance)を一気通貫でつなぐことで、工程ごとに情報が途切れないシームレスな治療プロセスを目指すものです。

その根底にあるのは、「歯がきれいに並んだ」ことそのものを最終目的にするのではなく、患者さんが心から笑える(”I can smile now.”)状態こそが治療の本当のゴールである という、患者さんを中心に置いた視点です。装置が見えにくい舌側矯正は、こうした「見た目・表情のゴールから設計する」という発想と相性がよく、両者を結びつけることで、審美的な希望により丁寧に応えられると考えています。

なお、この発表は新しい治療法の優劣を断定するものではなく、診断から装置設計までの「進め方(ワークフロー)」についての提案です。臨床的な有効性については、今後も症例の蓄積と検証を重ねてまいります。

この認定・発表が、当院の患者さんにとって持つ意味

学会の会員資格や学術発表は、ともすると専門家の世界の内輪の出来事のように見えるかもしれません。しかし当院がこうした活動を大切にしているのには、明確な理由があります。

第一に、外部の目による検証 です。ESLO の Titular 会員認定は、複数の完了症例を第三者の評価委員会に審査してもらう過程を含みます。自分たちの診療を、利害関係のない専門家の基準で確認してもらうことは、独りよがりにならないための重要な仕組みです。

第二に、学び続ける姿勢 です。矯正歯科の知識や技術は、年々更新されていきます。国際学会に参加し、発表し、議論することは、最新の知見に触れ、自院の診療を見直し続けるための機会にほかなりません。当院長は、医院の運営とあわせて、矯正歯科に関するセミナーの企画・運営や講演も数多く行っており、学んだことを次の世代の先生方へと共有することにも力を注いでいます。

第三に、舌側矯正という専門領域への貢献 です。見えにくい場所に精密な治療を行う舌側矯正は、技術の継承と標準化が特に重要な分野です。当院がその国際的な学会の一員として活動し、自院の考え方を世界の場で発信することは、舌側矯正を選ぼうとする患者さんに、信頼できる選択肢を提示し続けることにもつながると考えています。

もちろん、こうした資格や発表は、治療の良し悪しを保証する唯一の指標ではありません。最終的に大切なのは、目の前の患者さん一人ひとりに、誠実に、丁寧に向き合うことです。今回の認定と発表を、そのための土台をさらに固める機会として受け止めています。

おわりに

ヨーロッパ舌側矯正歯科学会(ESLO)の Titular 会員認定と、ヴェローナ大会でのポスター発表「The face leads. The teeth follow.」について、患者さんと専門家の双方に向けてご報告しました。これらは、当院が舌側矯正という専門領域で積み重ねてきた診療を、外部の評価にさらし、磨き続けてきた歩みの一つの結果です。

矯正治療は、数か月から数年にわたって患者さんと歩む長い道のりです。その道のりを安心して託していただけるよう、私たちはこれからも、技術の研鑽と、外部の目による検証、そして一人ひとりへの丁寧な診療を、変わらず続けてまいります。歯ならびや矯正治療に関するご相談がありましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。


上村先生の支えが無ければ今回の合格は成しえませんでした。いつもありがとう。
アクティブメンバーのベストケースは青山表参道矯正歯科の森崎先生
ティチュラーメンバーのベストケースは大宮ユニ矯正歯科の長谷川先生
医局同期の吉田先生、FLBコースを受講された奥田先生もティチュラーメンバーに合格!これからも切磋琢磨し精進しましょう。グループフォトの名手、道田先生もアクティブメンバー合格!
山田先生、金尾先生、橋場先生と症例提出に向かう途中でのひとコマ

参考文献

Ahmed, S., Alghabban, R., Alqahtani, A., Alrehaili, K., Aljarullah, A., Alghannam, A. S., & AlHathlol, A. M. (2024). Evidence of effectiveness of lingual orthodontics as an alternative to conventional labial orthodontics: A systematic review. Cureus, 16(1), e51643. https://doi.org/10.7759/cureus.51643

Almasri, A. M. H., Hajeer, M. Y., Ajaj, M. A., Almusawi, A. O. A., Jaber, S. T., Zakaria, A. S., & Alam, M. K. (2024). Patient satisfaction following orthodontic treatment: A systematic review. Cureus, 16(7), e65339. https://doi.org/10.7759/cureus.65339

Mistakidis, I., Katib, H., Vasilakos, G., Kloukos, D., & Gkantidis, N. (2016). Clinical outcomes of lingual orthodontic treatment: A systematic review. European Journal of Orthodontics, 38(5), 447–458. https://doi.org/10.1093/ejo/cjv061

Behnaz, M., Farahnaki, A., Rahimipour, K., Mousavi, R., & Sheikh Davoodi, N. (2019). Lingual orthodontic treatment: Efficacy and complications. https://doi.org/10.1177/2320206819881607

European Society of Lingual Orthodontics. (n.d.). ESLO Members(会員資格規定). Retrieved 【参照日:Jun 29, 2026】, from http://www.eslo-info.org/eslo-members

監修者

銀座矯正歯科 院長 中嶋 亮|東京都で裏側矯正を専門に行う矯正専門歯科「銀座矯正歯科」

院長 中嶋 亮 | Ryo Nakajima

日本大学松戸歯学部卒業後、同大学大学院にて歯科矯正学を専攻し修了。大学病院での研鑽を経て、2012年より「銀座矯正歯科」に勤務し、数多くの裏側矯正や複雑な症例に携わる。2021年に院長、現在は理事長として診療にあたる。見た目の美しさと咬合機能の両立を重視し、特に舌側矯正やデジタル技術を活用した精密治療に注力。患者一人ひとりの生活背景に寄り添い、長期的な健康と自然な笑顔を引き出すことを理念としている。

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【主な所属学会】

【論文・学会発表】